大きな木の下で | 徒然双樹

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    2023.11.15 Wednesday | - | - | -

    大きな木の下で

    JUGEMテーマ:コトノハ

    それは巨大な木だった。
    見上げれば天空は葉に覆われ
    幾重にも分かれた枝には溢れるほどの実が色づいていた。
    そしてその幹はどこまで続くのか判らぬほど太く大きかった。


    人々はまず実を欲した。
    腹が膨れると太い枝を切り落とし、木の傍に家を建てた。
    人が増えるとより高い枝、より遠い枝へと手を広げていった。

    やがて、よりよい実をよりよい枝を求めて、人は争いだした。
    巨大な木は人の血を吸って実をつけ枝を伸ばした。



    巨大な木の幹の反対側でもまた、別の人々が実を欲していた。
    彼らは人が増えすぎると、旅に出るものと残るものに分かれた。
    決して木の実を取りすぎず、木の枝を切りすぎず、元の形を維持することに努めた。
    しかし、木の実は徐々に減り、枝は徐々に細くなっていた。
    彼らは木の異変を感じ取っていた。色々な策を試したが、どれも効果はなかった。


    争いを続けた人々が、枝を切り落とし実を取り、
    さらには木の皮を剥ぎ、柔らかい幹を欲し始めた頃
    反対側で慎ましく暮らしていた人々に出会った。
    争いを続ける者達は彼らを木から追い出した。

    木を維持することに努めた彼らは争いを好まなかった。
    また、旅をするものが出るのは当たり前だとも考えていたので
    彼らは木から離れ、旅することに決めた。


    彼らが去った夜、
    巨大な木の枝がざざめいた。
    彼らを追うように枝先が微かに彼らの旅先の方へと傾いた。
    巨大な木は動かなかった。


    次の朝、巨大な木の実は落ち始めた。
    数ヶ月かけて、全ての実が落ちた。
    争う人々は全ての実が落ちるまで、木の異変に気がつかなかった。
    この木を自分のものにすることしか考えてなかった彼らは、気がつかなかった。

    実を無くして初めて彼らは木を見上げた。

    天空を覆っていた葉はすでになく、
    どこまでも続くと思われた幹はすでに一回りして元の場所に戻っていた。
    皮をはがれた巨大な木は今はもう、ただの木よりもみずぼらしく立っていた。

    巨大な木の実や枝、皮を当てにしていた彼らは当惑した。
    実はない。使えそうな枝もなければ、葉もすでに落ちている。
    巨大な木から得られるものは何もない。

    彼らはどうしていいのか判らずに、立ち尽くした。
    立ち尽くしながらも、巨大な木をまだ当てにしていた。
    彼らは何もせず、また実がなることを祈った。

    その祈りは通じず、数日後、木は倒れた。
    それでも彼らは何もしなかった。
    ただただ、実がなることを待ちながら残った木の幹を食べた。
    木は彼らの骸とともに朽ち果てた。




    争いを好まず旅に出た人々は、先に旅に出た人々に出会った。
    彼らから木の外の世界を学び、また新しい住処を探して旅に出た。






     
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      2015.10.24 Saturday 22:26 | 物語 | - | -

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        2023.11.15 Wednesday 22:26 | - | - | -

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